発端
そもそも、世界は3つに隔てられていました。
我々人間の住む、地上界。
神様や天使がのんべんだらりと暮らす、天界。
悪魔とか魔族とか呼ばれる人たちが自分たちなりに楽しく暮らしている魔界。
この3つの世界は今まで干渉することなく、ぼちぼち平和にやっていました。
しかし、均衡は崩れました。
神様と悪魔の王様のちょっとした口喧嘩に端を発するいさかいが、天界と魔界の小競り合いに発展。
その争いは日々激しさを増していきました。
「あんなクソッタレな悪魔どもぁ、天使をバーと並べてガァーとやっちまったらええんやぁ」
やがて発せられた神様の勢い任せな一言は、天界から魔界への大規模な遠征に発展。
結果として、魔界はほぼ壊滅。生き残った魔族たちは安住の地を求めて、手付かずだった地上界へ侵略を始めました。
天界の人たちはこれを食い止めようとしましたが、無謀な遠征によっていたずらに戦力を消費した彼らに、逐一魔族の動向を監視する力はありません。
こうして、魔族は人間界を侵食しはじめたのです。
魔族たちは天界側の攻撃によって、その個体数を著しく減らしていました。
地上界を征服するには、もっともっと力を蓄え、仲間を増やさねばなりません。
そこで魔族の人たちが考えついたのは、地上界の女の人を利用する事でした。
手っ取り早く言えば、要するに精気を吸ったりとか、孕ませたりとか、そういう事ですけど。
けしからんとは思いつつも、天界の人たちは疲弊しきって手が出せません。
なら人間たちでどうにかできるか? といわれると、ぶっちゃけ無理です。なぜなら、人間たちには魔力がないからです。
神様や天使、魔族の体は魔力で練られた肉体なのです。魔力の肉体は魔力をもってしなければ傷つけることはできません。
そのくせ魔力で練られた肉体は、原子で作られた人間たちの肉体に普通に干渉できるんですから理不尽なものです。
ですが、魔力を持った、あんまり普通じゃない人たちも、わずかですが存在しました。
その多くが、何故だか若い女の子に集中していましたけれど、まあ気にしてる場合じゃありません。
神様は自分の気の短さを棚に上げて、地上界に最下級のパシリ天使をたくさん派遣しました。
"えんぜくん"と呼ばれる、一見フサ毛の小動物に見えるその連中は、魔力を持つ少女たちにその使い方を教授し、そして魔族との戦いへと誘うための役目をおおせつかりました。
何せ地上界が侵略されたら、次は天界が攻撃されるのは目に見えていますからね。神様も必死です。
かくて、現代日本。
天上界の軍勢が再編されるまでの時間稼ぎ的にかき集められた少女たちによる、どこまでやれるやら、非常に不安な戦いが、幕を開けたのです。
魔法
さて、そんなこんなで力を授かった少女たちがいたわけですが、彼女たちは魔力を持った特異な体質ではあったものの、その力の使い方なんざカケラも知りませんでした。
さすがにこれにはえんぜくん軍団も困りましたが、これには触媒を与える事で解決しました。
触媒とは、すなわち魔法を発動させる鍵になるものです。彼女たちが持っている魔力を流し込み形にする、鋳型の役目を果たすものと言えばいいでしょうか。
その触媒には、ふたつの力が与えられました。
ひとつは、"フィジカル・アトリビュート"。魔力を物質に変化させ、武器や服、鎧を作り出す機能です。
そしてもうひとつは、"マジカル・アトリビュート"。光弾や炎を撃ち出したり、怪我を治したり、空を飛んだりといった超常現象を、科学法則を無視して発生させる機能です。
このふたつの、直感的に理解しやすい機能を与える事で、少女たちは魔力を有効に使い始められるようになりました。すなわち、武器や鎧を瞬時に作り出すことで"変身"し、いかにも"魔法"と見えるような力を発揮できる、ヒロインたちが誕生していったのです。
そしてその触媒は、彼女たちが肌身離さず持ち歩けるように、指輪や髪飾りといった、ちょっとしたアクセサリーの形を取るのが、彼女たちヒロインの間では、いつの間にか一般的になっていきました。
しかし、忘れてはなりません。もし、わずかでもこの触媒を手放している間があれば、その間彼女たちは無力であるという事を……
カルテル
さて、こうしてヒロインたちの戦いが幕を開けてから、そろそろ2年あまりの時間が経とうとしています。
魔族たちは弱体化し、その個体数も著しく減少させたとはいえ、それにも増して大きく数で劣るヒロインたちでは、魔族を打ち滅ぼすような事は、未だできずにいました。
それどころか、魔族はぼちぼち人を襲う事に成功し、人の精気を吸ったり、人を魔族の仲間に引き込んだり、あるいは人間の女性を孕ませたりして、その勢力をわずかずつ回復してすらいます。そういった被害者の中には、戦いに敗れたヒロインたちもいた事でしょう。
こういった状況を顧みて、あるヒロインは、ひとつの考えを実行に移しました。
それは、魔族を撃滅するためにヒロインを育成し、魔族の存在を調査し、魔族が発見されればそこへヒロインを派遣し、またその戦闘のバックアップを行なう組織の発足です。
ヒロインたちは、単独から数人程度のチームで行動するのが一般的だったのに対し、魔族は配下のモンスターを従え、大挙して事を起こす事がしばしばありました。また、高位の魔族の魔力は、ヒロインたちでは足元にも及ばないほど強力だったという事実に対し、状況を打破するには、組織力しかないという考えがあったと言えましょう。
こうして組織が発足して、数ヶ月。エージェントとして訓練されたヒロインと、戦闘以外の任務――事前の情報収集や、戦闘によって荒れた現場の復旧など――を受け持つバックアップ人員の体制が、なんとか整ってきたところです。
これを真似るようにして、エージェントを育成し派遣するシステムを持った組織がいくつか生まれました。これらは現場を離れたヒロインをトップに立てて運営されている組織である事がほとんどで、そしていつしか"カルテル"と統一的に呼ばれるようになっていました。
もちろん、全てのヒロインがカルテルに所属しているわけではありません。
それどころか、現存する全てのカルテルは、少女が魔力を持っているかどうかを判別する術を知りません。えんぜくん等から力を授かった少女が戦っているところに割り入って、自分のカルテルに引き抜くしかないのです。
このため、単独から数人程度のチームで活動している、いわばフリーのヒロインが、まだまだ多数を占めています。
代表的なカルテルを以下に紹介しておきます。
【アイアン・メイデン】
世界で最初のカルテルです。
魔族との徹底抗戦を提唱し、その殲滅を最大の目的としています。
このカルテルに所属するヒロインは、基本的に魔族、および魔族に協力する者に対して一切の容赦をしないよう教育されています。人質や尋問などに利用する時以外は、原則的に魔族は発見し次第倒す事を美徳としています。
こういった方針に基づき、このカルテルのヒロインは、戦闘力、とりわけ殲滅力を最優先した訓練を受ける事が多く、自らを捨て石としてでも魔族を倒す事を至上命題として受けています。
【黄昏の星教会】
数でも力でも魔族に劣る人間では魔族に勝利する事はできないと考え、より良い敗北、すなわち魔族との協調と講和を目的として活動しているカルテルです。
意思疎通の可能な魔族とは極力殲滅戦を避け、話し合いで事態を解決しようとする風潮があります。最終的には、魔族に侵略された地上界において、魔族との親密な関係を土台にして、人間社会の頂点に立つ事を目的としています。
アイアン・メイデンからは、"利己的にして、人間を堕落せしめる組織"や"悪魔に魂を売った者ども"として敵視されています。
【桜花楼】
比較的新興で、その人数も少数ながら、優秀なエージェントを擁するカルテルです。
一般的なカルテルと違い、地上界の行く末や、魔族と人間の種族的対立、利権争いなどに興味を示していません。その活動趣旨は"孤軍奮闘しているヒロインの保護と、魔族による被害者の介護"です。
良心的で人間味に溢れたカルテルと言えなくもありませんが、将来像を持っておらず、その場その場で弱者を庇って行動する形を取っているため、場当たり的であり、最終的には大きな災厄の引き金になるかもしれません。
メイガス
ヒロインは確かに強力な戦力ですが、単独で行動していると、魔族の卑劣な罠の前に敗北を喫したり、悪に堕とされてしまったりという事が過去、何度も確認されています。
これに対処すべく、アイアン・メイデンが発足させたのが、"メイガス"です。
これは、同じ学園に通っているなど、比較的距離の近いエージェントたちを同じチームとして行動させる事で結束を強めるとともに相互監視の意味を持たせ、一人が倒されても残りの者が救助に当たったり、一人が魔族の手によって悪に堕とされかけても、絆の力で引き戻したりする効果を狙ったものです。
メイガス所属のヒロインには、チーム名にちなんだコードネームが与えられます。
例えば、プリズミック・メイガス所属のプリズミック・シアン、プリズミック・セピア、プリズミック・マゼンタ……といったような命名法則です。
今の所この制度は、まだ明確な効果は上がっておらず、試験的に試みられている段階です。