フェルサリアの貨幣経済

フェルサリアにおいて、貨幣はG.P.――単位重量金(Gold Pieces)が使用されます。

魔物の侵略によりあらゆる都市や国家が常に崩壊の危機と隣合わせであるこの世界においては、
現実世界の国営銀行が発行する紙幣のように、
『本来希少価値が無い素材を貨幣と定め、消滅する事が想定されていない機関がその価値を保証する』
という形態を取ることが出来ません。
そのため、希少価値のある現物のみが真に価値ある物として存在し得るのです。

とはいえ、ただの物々交換はあまりに不便で、また個々人の価値観で価値評価が変わってきてしまうなどの問題から
フェルサリアに現存している主要国家間で、金を貨幣として用いるための、重量に基づく価値基準が定められました。
およそ、50年ほど前の事です。

これが現在フェルサリアで用いられている単位重量金制度です。
この制度の導入後、どんな商店でも秤を使って金の重さを測り、貨幣価値を算定しています。

このためフェルサリアで現在用いられている貨幣は、一般的に金です。
金でさえあれば重量に基いて貨幣価値を算定できますので、フェルサリアには現在さまざまな金貨が流通しています。
合法的に手に入れた金であれば、私鋳銭なども一切罪に問われる事はありません。金は金だからです。

最も一般的な1G.P.金貨は、現代日本で言う一円玉より一回り小さい程度のサイズの金貨です。
これが単位重量金制度を定める上での基礎基準になったと言われています。

一部の権力者などは自身の力を誇示する意味も込めて、自身が発行元である事を示す刻印を施した金貨を
お抱えの職人などに作らせる事もありますが、どのような発行元の金貨であれ、その重量以上に
貨幣としての価値を定める基準はありません。

ただし、純度の低い金であったりなどの事情がある場合は、同じ重量でも半額の貨幣価値と扱われたりといった事は
日常的にありえます。
優れた目利きを持った商店の主などは、そのあたりにも敏感なのが一般的です。

フェルサリアの技術水準

フェルサリアの科学技術は、現実の歴史で言う13〜14世紀ごろに近いものとなっています。
ただし、都市部では一般的に上下水道が完備されているなど、一部はローマ帝国の全盛期レベルの技術水準です。
電動式の機械はもちろんの事として、蒸気機関も発明されていません。機械の類も全く無いわけではありませんが、
滑車や歯車を利用した初歩的な力学装置レベルに留まっており、また一般的に広まってはいません。
ごく一部の大掛かりな仕事のための、珍しい道具という位置づけに留まっています。
火薬の類も実用レベルで量産されてはおらず、銃・砲の類も存在していません。

武具に関しては、量産品は鋳造、逸品は鍛造されるのが一般的です。
腕の良い名工なら鍛造で逸品を作り出す事も可能ですが、少ない工数で物づくりができ、品質のばらつきも少ない
鋳物製法が、この世界における金属加工のデファクトスタンダードとして認知されています。

初歩的な活版印刷も都市部では取り入れられており、書物の作成に関しても手書きは古い方法になりつつあります。
このため書物の量産も可能であり、その事が識字率の高さにも反映されています。
国際的な義務教育の水準は無くとも、書物を通して大半の子供たちは、成人前に読み書きと四則演算には
不自由しない程度の学力水準を手に入れるのが一般的です。

フェルサリアの魔法

フェルサリアにおいて科学技術と同等以上に重要な役割を持つ技術が、魔法です。
フェルサリアにおける魔法とは、創世の夫婦神が人類に与えたもうた、世界法則を改変しうる能力です。
神の持つそれよりは遥かに稚拙で限定的な力ですが、物理法則を超えた奇跡を起こす事ができます。

ただし、もともとは神の力であるそれを人間の身で扱うのは決して楽な事ではありません。
魔法の反動は魂の疲労とも言われ、身体的・精神的の両面から重い疲労となってのしかかって来ます。
このため、並みの魔法使いは一日に4〜5回程度の魔法しか使えないものと一般的に認知されています。

神威魔法

神威魔法とは、フェルサリアに最も古くから存在する系統の魔法です。
自身の精神の修養により、己の魂を神に近いものへと鍛え上げる事で、もともと自身の中に眠っていた魔法の力を
地母神の権能の如き癒しの力、天父神の権能の如き破魔の力として発現させるものです。
かつて神と人が共に暮らしていた時代から使われていた由緒正しい魔法であり、神の『模倣』をその本質とします。

その性質上、神聖な魔法とみなされますが、本質的に必ずしも信仰心が必要なわけではありません。
しかし、神威魔法を身につけるための心のありようを学び修行を積むための場所は、一般的に神殿です。
そのため、神威魔法の使い手の多くはどこかの神殿に所属しています。

全智魔法

全智魔法とは、神が肉体を失った今の時代に入ってから編み出された系統の魔法です。
それまで神の権能の『模倣』たる神威魔法だけが人類にとっての魔法であったのに対し、さらなる万能さを求めて
魔法の力の本質と、その応用に関する研究によって新たに編み出されました。

現在では齢八十をゆうに越える大魔導師アルク・メギストの半生をかけた研究により全智魔法は詳細に体系化され、
知識の習得によって、才能や精神性に左右される事なく使えるようになっています。
もちろん魔法の行使に必要な精神の修養は神威魔法と同じように必要ですが、魂の鍛錬に基づく神の模倣ではなく、
魔力の本質を知り、それを理論によって自分の望む形に組み上げて行使する点が決定的に神威魔法と異なります。

その性質上、神の過去の偉業にも無い、どのような物理法則の改変も理論上可能とする『変換』を本質としています。
もっとも、それは理論上の話であり、人間の魔法力は神のそれに遠く及ばないため、完全無欠ともいきません。
少なくとも、完全なる無から有を生み出す事は、かの大魔導師アルク・メギストにも実現できておらず、
一見すると突然何かを発生させているようでも、何らかの変換を介して発生させているのが普通です。

なお、施術には『発動体』が必要となります。
『発動体』とは、全智魔法の発動に必要となる道具です。一般的には、ヤドリギや銀などの、魔力を伝導する
『魔導素材』から作られた、均質の棒状の物が用いられます。
これは、全智魔法が神威魔法よりも複雑な形態で発動する魔法である事から必要になった、いわば補助装置です。
全智魔法は、いくつもの小さな現象を組み合わせてひとつの魔法として発現させるなどの方法を取る事が多く、
術者本人とは別個に、順次発動させる予定の魔法のための魔力を一時的に保持したり、
あるいは逐次的に魔法を実行するなどといった補助役が必要になるのです。
その相互干渉のタイミングなどの問題もあるため、この補助役は他人が行う事もできません。
これを解決するのが『発動体』です。
一般的には杖の形が好まれますが、魔法使いであると同時に戦士でもある者などは、剣などの武器を
発動体にする場合もあります。

これらの特性から、多くの場合、神威魔法よりも施術方法が複雑で、そのぶん多彩な事ができる便利な魔法と
認識されています。

錬金魔法

錬金魔法とは、正式には全智魔法の一派なのですが、特に差別化してこう呼ばれます。
その本質は『付与』にあります。物品に魔法の力を付与する事で、半永続的に効果を得られる道具を作成します。

魔法の道具とは例えば、室内の気温を一定に保ってくれる宝玉、中身を腐敗させずに保管させられる壺や箱、
軽量で扱いやすく切れ味鋭い魔法の武器などです。
その制作物は裕福な者たちのための高級な家具などとして使われている物が大半ですが、
武具のたぐいは冒険者たちにとっても大きな助けとなる事でしょう。

全智魔法の使い手がメイジと呼ばれるのに対し、錬金魔法の使い手はアルケミストと呼ばれます。
一般的にアルケミストは冒険者や討伐者にはならず、一箇所に定住して、魔法の物品を作成する職人としての
定職に就いて暮らしている事がほとんどです。

暗黒魔法

暗黒魔法とは、邪神ゲベルーニャがこの世界に持ち込んだとされる、邪悪なる性質の魔法です。
その本質は未だ明らかにされてはおらず、またどのような原理の魔法であるかも明らかにはされていません。
妖魔や、一部の魔獣、異形の魔物たちが行使する術であり、魔法であるという事が判明しているのみです。
一部には人間でありながら暗黒魔法を操る者もいますが、彼らもまたどのようにして暗黒魔法を習得したか
その口から語る事はありません。
一説には、邪神の狂気にまみれた天啓を受け、気が触れる事で使えるようになる魔法だとも言われていますが
これを支える根拠は確認されておらず、単なる俗説とみなされています。

明確に言えるのは、その魔法の多くは人類にとって有害なものであるという事です。
いずこからともなく魔物を召喚したり、へレティアの花や芽を生み出したりといったものがその典型です。
それ以外にも人の精神を操ったり、行動の制限や不幸を与えたりする呪いをかけたりといった物もあり、
私利私欲のために、あるいは人を苦しめる目的で使えば甚大な被害を生みかねないものが揃っています。
そして、実際に暗黒魔法を使う者の大半は邪悪な者たちです。

呪刻器

暗黒魔法には、道具に対して邪悪な呪いの効果を宿らせる呪法が存在しています。
全智魔法に対する錬金魔法のように、道具に特別な効果を与える、魔術的な加工方法とも言うべきこの技術は
一部の暗黒魔法の使い手がここ数十年ほどで編み出したものであると言われています。
それが証拠に、暗黒魔法の使い手が討伐された跡などからは、時折強力な呪いを施した道具が発見されます。

"呪刻器"と呼ばれるこれらの道具は、総じて持ち主が他者を操る、あるいは苦しめるために作られており、
人を弄ぶ忌まわしい邪悪な道具として、フェルサリアの大半の地方では能動的な使用や金銭での取引が
禁じられています。
多くの場合、神殿に預けられて破壊、または厳重に封印される事でしょう。
呪刻器を呪刻器たらしめている呪いは、一時的な呪いを解くための魔法では解除できないため、
その処分には神殿が関わるのが一般的です。
場合によっては研究目的で解析を試みる者もいるかもしれませんが、一般的ではありません。

また、これら呪刻器の一部はまるで生物のように本能を持ち、穢れを体に宿した人間に"寄生"する場合が
しばしば見られます。
"寄生"の仕方はさまざまで、例えば体に張り付くようにして離れなくなったり、
まるで魔蟲のように触手が生えてきて宿主の体にまとわりついたりといった具合です。
中には宿主に対する独占欲を示すかのように、宿主が着ようとした服や鎧を引き裂いてしまう武具なども
レアケースですが確認されています。
また、宿主が弱った時には、これ幸いと宿主の体を責め苛み、魔物化へと導こうとする呪刻器も存在します。

不幸にして寄生されてしまった者がこれらの品々を形態している(させられている)事は
同情の余地を鑑みて、法的には取り締まりの対象外となっている事が多いようです。
とはいえ、呪刻器に寄生された人物が周囲から忌避される事もまた事実と言えるでしょう。