魔物
フェルサリアにおいて"魔物"とは、邪神ゲベルーニャが地母神ミラを孕ませ、産み落とさせた種族を指します。
彼らは皆一様に、体内に邪悪な穢れを宿しています。
ヘレティアの花が吹き出す瘴気は、この世界に元々根付いていた生物にとっては穢れをもたらす毒ですが、
彼ら魔物にとっては、むしろ生命活動を活性化させる効果すら得られるものです。
魔物たちは、人類にとっての生存競争相手であり、不倶戴天の敵です。
人類や動植物たちの生態系を壊す毒を撒き散らすヘレティアの花に囲まれて暮らす事はもとより、
その版図を広げ、フェルサリアを自分たちの楽園にしようとする侵略の意図を本能的に持っており、
人類の社会においては、戦う力を持つ者は魔物を積極的に討伐する事が推奨されています。
ヘレティア
魔物の生命活動を活性化させ、人類や自然の動植物たちにとっては肉体を汚染する毒ともなる
邪悪な瘴気を花粉のように撒き散らす、赤紫色の花をつける植物です。
邪神ゲベルーニャが地母神ミラに植えつけた邪悪な命たちの全ての祖であるとも言われていますが、
その生態は謎が多く、草花のように道端に咲いている事もあれば、大木に咲き乱れている姿も見られます。
多くの場合、魔物たちのコロニーには、まるで神木のようにヘレティアの木が立っており、
さながら魔物たちの占領旗であるかのように赤紫色の花を誇示して咲かせている事が多く見られます。
満開のヘレティアの花が生み出す濃厚な瘴気は、人類にとっては短時間で魔物化を招く恐るべき毒であるため
魔物たちにとっては、生存競争相手である人類に対する、この上ない防柵代わりでもあります。
瘴気それ自体が、人類にとっての酸素のように、魔物の生命活動に必要不可欠な物というわけではありませんが、
魔物たちの多くはヘレティアの花畑や大樹の元で群れを形成し、勢力を拡大していきます。
もっとも、ヘレティアは植物であるため、刃物で斬ったり、火で燃やしたりする事は容易です。
魔物たちのコロニーの中核を成しているヘレティアの木を排除する事は、彼らに占領された地を
人類の手に取り戻すための、ごく一般的な方法です。
魔物化とキュバス
ヘレティアの瘴気に浸食された生物は、その瘴気に肉体を書き換えられ、魔物と化します。
植物はヘレティアに、動物は魔獣に、そして人類は"キュバス"に変容してしまいます。
キュバスとは、いわば吸血鬼ならぬ吸精鬼です。男性はインキュバス、女性はサキュバスとも呼ばれます。
ヘレティアの瘴気が毒ではなく、肉体を活性化させる効果を得られるようになる事を除けば、
基本的な生態は魔物化する前の種族のものと、一点を覗いては変わりません。
その一点とは、体液の交換を通じて、人類から生命力を吸収できる事にあります。
この能力は、原理は解明されていませんが、なぜか魔物には効果を発揮しません。
そのためキュバス化した者は、人類にとっては恐ろしい敵に変じた同胞の成れの果てであり、
それでありながら、妖魔を始めとした魔物たちにとっては奴隷として扱われる傾向が強い存在です。
なお、外見上の特徴として、瞳が鮮血のような赤に染まる事が挙げられます。
これは人類には無い瞳の色であるため、目さえ開いていれば人類との識別は容易です。
魔物化のプロセス
ヴァルキリーズ・チルドレンでない一般人や、ごく普通の動物が瘴気に触れた際、
多くは強烈な胸焼けのような感覚を感じたのち、思考不能に陥ります。
個人差はありますが、おおむね十数秒〜数分程度で気絶、または朦朧として行動不能となります。
この状態のまま救助されずに数十時間〜数日程度の時間が経過する事で体が瘴気によって変容させられ、
魔物化が完了します。
多くの場合、魔物化した時点では人間だった頃の記憶は保持していますが、
魔物化しキュバスとなった元人間にとっては、人間は体液交換を通じて生命力を吸い取る対象です。
言うなれば食料と言い換えてもいいでしょう。
キュバス化した後も個人による考え方の違いというものはあるでしょうが、一般的にキュバスにとって
縁もゆかりもない人間は食料であり、親しかった人間は仲間に引き入れたいと考える事が多いでしょう。
ヴァルキリーズ・チルドレンも魔物化する際には基本的に同じようなプロセスを辿りますが、
瘴気に晒されても思考不能にはならず、魔物化までに数十日〜数ヶ月を要するという違いがあります。
ただし、それはあくまでも"瘴気に晒されているだけなら"という前提条件です。
魔物との体液交換など直接的に穢れを注ぎ込まれる場合は、より短時間で魔物化する場合もあります。
妖魔
魔物の中でも知恵を持ち、人語を解し、人類同様に二足歩行する者たちを妖魔と呼びます。
知恵なき禍々しい鳥獣のような姿を持つ者たちとは一線を画した存在であり、やや原始的ではありますが
集落を築いて生活をするなど、人類と同じように文明を持つ存在でもあります。
魔物たちの中の支配階級種族と考えてよいでしょう。
多くの場合、彼らは食料生産など生活の基盤を自分たちでは担わず、
人類の農村や集落から略奪してくるか、より弱い妖魔を奴隷として使役し生活を成り立たせています。
場合によっては、人族の農村や集落を包囲し、あえてヘレティアを繁殖させずにおくことで、
さながら人類を奴隷か家畜のように扱い、自分たちの生活の糧を作らせている場合すらあります。
また彼らの中には、ほとんど雌が存在しません。
その代わりか、人類の女性と交配が可能という特性を持ち、多くの場合はその形で子孫を残します。
これが人類の女性側の合意によるものである事などまず無いのは、言うまでもありません。
オーク
オークは、妖魔の中でも最も多い個体数を持つ種族です。
豚のような上向きの鼻、尖った牙という特徴の顔立ちが特徴です。
平均身長は170cm程度で、ほぼヒューマの男性と同等ですが、背筋が曲がっている者が多い分、
やや短躯に見える傾向があります。
寿命はリカントと同程度の50歳前後ですが、やや肉体的に早熟であり、12〜13歳で成人体となります。
多くの妖魔と同じように、自ら生活の糧を得るための労働を行う事はほとんどありません。
一般的に、人類から略奪を行う事か、労役奴隷に糧を作らせて生活を成り立たせています。
彼らはそのやり方と、極めて強い繁殖力、劣悪な環境にも耐え得る生命力と順応性を武器として、
現在のフェルサリアの妖魔の中でも最も栄えた文明を持ち、独自の国家すら築いています。
とは言え、彼らの持つ文明は良く言えば質実剛健たるもので、芸術や学問は非常に稚拙なものです。
妖魔の中では最も栄えた文明と言っても、藁葺きや石造りの家で集落を造り、
石や青銅の武器、革の鎧を装備して、略奪行為や奴隷の使役で日々の糧を得て生活し、
食料に余裕があれば怠惰に時間を過ごすという程度のものです。
これはオークの知能水準が人類よりも低い事が原因のひとつですが、より大きな理由もあります。
彼らは弱者からの略奪、それを成し得る暴力によって生活を成り立たせているという文化から、
肉体的な強さが、そのままオークたちの中での権力に直結している事が多いのです。
多くの戦士と奴隷を配下に擁する支配者階級のオークは、大半の場合、屈強な戦士です。
また、オークたちは子孫を残すため、また自分たちの数少ない娯楽の用途として、
人類から攫ってきた女性を監禁し、"共用"する事がしばしばあります。
その場所がヘレティアの影響下であれば、遠からず彼女たちはキュバス化してしまいます。
ゴブリン
ゴブリンは、妖魔の中でも最も脆弱な種族です。
緑色の肌を持ち、平均身長は150cm程度と小柄です。比較的非力ですが、手先はなかなか器用です。
悪知恵は働きますが、それ以上に臆病で卑屈で、強者に逆らえない性質を持ちます。
もっとも、強者がその場にいない状態においては、平然と裏切りを働くような所もあります。
会話が可能な程度の知能を持ってはいますが、喋り方は片言で、また発音が乱雑なため、会話していて
良い気分になる事はあまり無いでしょう。
多くの場合において、彼らゴブリンは単独で群れを作るという事はしません。
非力で脆弱な種族のため、独力だけで群れを維持していくのが難しいというのが現実です。
たいていオークなど、他の妖魔の群れに混ざって労役奴隷として暮らしています。
それも彼らゴブリンが率先して労働に従事しているわけではなく、オークなど上位の立場にいる者の
力に平伏して従っている事が多いようです。
オーク同様、繁殖には人間の女性の母胎を利用します。
群れの中で上位の者の許しを得て、人間女性の"共用"に参加する事がしばしばあるようで、
これが彼らにとっての数少ない娯楽であり、また子孫繁栄のための手段ともなっています。
平均寿命は30歳前後と短いですが、5〜6歳で成人体になります。
多産の種族ですが、脆弱な肉体のため、3歳まで生き延びられる者すら全出生数の2割もいません。
そのため、出生数が多いわりには、成人体の個体数ではオークに劣っています。
グリン
グリンは、さながら植物と人間の中間のような姿を持つ種族です。
肌は青白く、髪は細く強靭な蔓のような緑色をしています。
髪は年齢を重ねるごとに先端から赤紫色に染まっていき、最終的には髪全体が赤紫になります。
平均身長は175cm程度とわずかにヒューマの平均より高めで、体つきはほっそりとしています。
寿命はヒューマ同様、60歳程度のようです。
グリンは肉体的にはさほど強い種族ではありませんが、優れた知能と魔力を持っています。
殊に、暗黒魔法の使い手としては後述のリンドヴルムさえも上回る存在になりえます。
しかし最も恐るべきは、彼らが暗黒魔法の余技として修得する、魔獣や魔蟲の使役術でしょう。
グリンは魔獣や魔蟲を使役する術に長けており、それらを飼育する上で、その食料や苗床を
積極的に捕獲し、使いきろうとする性質があります。
それは取りも直さず、配下の魔物を使役して人間を襲うという事に他なりません。
優れたグリンの暗黒魔法使いは、魔獣や魔蟲の大群を形成している事がしばしばあります。
一方、グリン自身はあまり多くの食料を必要とせず、水だけでも生きていく事ができます。
また彼らは文明的なもの、人工的なものをあまり好みません。貫頭衣ぐらいは身に着けますが、
多くの場合、ヘレティアに汚染された森やダンジョンの中で、文明に依存しない暮らしをしています。
このため、野良かと思われていた魔獣や魔蟲の出没地域では、実はグリンが潜んでいたという場合も
少なからず見受けられます。
魔物としては珍しい事ですが、グリンには男性と女性が存在します。
もっとも、グリンの女性はほとんど姿を現さず、僻地にひっそりと隠れ住んでいる事が多いようです。
これは昔、雌に飢えたオークがグリンの女性を襲った事から生まれた軋轢が原因とも言われています。
それが事実かどうかはわかりませんが、実際にグリンの女性は身を隠すように過ごす事が多く、
グリンにはオークを蔑視する者が多い事もまた確かです。
イヴリス
イヴリスは、後天的に妖魔となったキュバスを除くと、最も人間に近い容姿の魔物です。
灰色の肌と赤い瞳、そしてエルフのように尖った耳をしており、体格的にはほぼヒューマと同等です。
寿命はエルフ並みに長く150〜200歳程度と言われていますが、詳しい検証は未だされていません。
少数ながら女性も存在しますが、同種族以外にも人間と交配が可能です。
イヴリスは均整の取れた能力を持ち、人間並みに高い知能と、屈強な肉体を併せ持ちます。
また人間の持つ学問や芸術といった文化にも理解を示すだけの感受性も持っており、
その精神性もまた人間に近いと言えます。
しかし、やはり最大の違いは、彼らは生まれついての邪悪の徒であるという事です。
最も人間に近い精神性を持つ彼らが何故人間のように独自の文明を持たないのか、
その答えは、彼らが生まれ持つ深い悪徳にあるのです。
彼らイヴリスは、極めて我欲と嫉妬心が強く、高慢で、そして狭量であるという性質を持ちます。
自分に無いものを持つ他者を妬み、可能であればそれを奪い取ろうとするのが常であり、
手に入れば勝ち誇り、そして持たざる者を蔑むというのが当たり前の姿勢となっています。
このため、その優れた能力は建設的・生産的である事柄にはほとんど活かされる事がありません。
その知性は策謀を巡らせるために、その肉体は暴力で奪い取るためにばかり使われています。
こういう性質を持つためか、同族で寄り合って暮らしている場合もそう多くはなく、
そのため個体数もやや少なめで、オークのように頻繁に見られる存在ではありません。
たいていの場合、物言わぬ魔獣・魔蟲や、より下等な妖魔を手下にして自ら勢力を築いているか、
より強い妖魔の下で、幹部や参謀的な存在として――獅子身中の虫と睨まれているかもしれませんが――
働いているかのどちらかの場合が多いようです。
暗黒魔法を使う者もおり、人間に化けて人間社会で暮らしている者もまれに存在します。
魔物である事を見抜かれなかった彼らは、きっと大きな悪事を企て、実行する事でしょう。
リンドヴルム
リンドヴルムは、妖魔の中では比較的個体数の少ない種族です。
人類よりも一回り大きい体躯を持ち、平均身長はおよそ2m強。
ほとんどが男性であり、女性もいないわけではありませんが、ごく稀であり目にする機会はほぼありません。
人類には詳しい生態は観測できていませんが、寿命は少なくともエルフより長いものと考えられています。
最大の特徴は、竜に似た身体的特徴を持っている事が挙げられます。
顔から胸、腹にかけては浅黒い肌をしたヒューマにも似ていますが、頭には二本の角が生え、
両の腕と脚は分厚い筋肉の上に、鉄よりも強靭な鱗を備えています。
背中にも皮膜の翼を備えており、その風貌は非常に威圧的です。
肉体的な強さにおいて妖魔の中では随一ですが、知能もまた高く、暗黒魔法をも使いこなします。
彼らは他の妖魔と同じように人類の敵対者ではありますが、極めて利己的で排他的な性格を持つため、
他の妖魔と協力したり、知性の低い魔物を支配下に置いたりといった事をあまり好みません。
平易に言えば"自分さえ良ければいい"という性質が強いため、自身さえ満ち足りた生活ができるのなら
人類社会を積極的に攻撃する事も、妖魔の社会に貢献しようとする事もまずないのです。
多くのリンドヴルムは、自身の強さと、それによって得られる自己の利益以外には無関心です。
そのような性質を持つリンドヴルムは、社会を形成する事はほとんどありません。
狩猟や略奪で日々の糧を得ながら、気ままに暮らしている事が大半です。
中には金品や貴金属に価値を見出す者もいますが、彼らに貨幣経済という概念はありませんので、
自身の棲家に持ち帰り、貯め込んで悦に入るためだけである事が多いようです。
このため、妖魔の中で随一の戦闘能力を持ちながら、人類と直接敵対する機会はあまり多くありません。
ただし、中には人間の村を暴力で支配下に置いて供物を捧げさせたりする事で糧を得ている者もいます。
そのような場合、リンドヴルムは間違いなく強大な脅威となるでしょう。
なぜなら彼らはその利己的な性質ゆえに、自分の縄張りを荒らされ、何かを奪われる事を極端に嫌うからです。
リンドヴルムもまたオークと同じように、子孫を残すために人類の女性を孕み胎としてしばしば使います。
ただし、オークのように"共用"する事はありません。
自分の子を成すための雌もまた、彼らにとっては奪われる事が耐えられない宝だからでしょう。
魔獣・魔蟲
魔物の中で、それぞれ比較的鳥獣・蟲やそれに似た少生物に近い特性を持った者がこう呼ばれます。
これらの生物は、女神を陵辱して邪神が産ませた子らと言われており、その大半は雌性体が存在せず、
人間の女性の母胎を借りて繁殖するという性質を持っているという傾向があります。
ダンジョン
地下に作られた魔物たちのねぐらとなっている迷宮を、"ダンジョン"と呼びます。
かつて神々の戦いの時代、戦力の大半を失った邪悪な魔物たちは、地下深くへと追いやられたと言われています。
妖魔たちは洞窟を居住に適するように掘って改装し、魔獣や魔蟲は地中での活動に適した進化をする事で
神々の戦いから百年、今日に至るまでひっそりと生き延び、時に人間を襲って糧と苗床を得て数を増やし、
そして地上に這い出て来たのです。
旧スヴィニア王国跡に築かれた妖魔の帝国などの例外を除けば、一般的に魔物のコロニーは地下に存在しており、
これを完全に殲滅するにはコロニーと化しているダンジョンを叩かねばなりません。
多くの場合、コロニーのボスとなっている強力な魔物が住み、またヘレティアの樹木が自生している事でしょう。