フェルサリアの人類社会
フェルサリアの人類は、ヒューマ・エルフ・ドヴェルグ・リカントの四種族が混在して社会を形成しています。
地方村落、それも住みづらい山や森などの地形に囲まれた殊更な田舎であれば、一種族だけの村もありますが、
都市と呼べる規模の共同体においては四種族のいずれかでも欠けている事はまずありません。
ここでは、典型的なフェルサリアの都市のありようを記載していきます。
冒険者
ヴァルキリーズ・チルドレンの大半は、"冒険者"として活動しています。
冒険者とは、魔物の討伐に代表されるさまざまな厄介事を一手に引き受ける何でも屋の総称であり、
また時として、都市や村に定住し定職を持っている者の対義語としてこの言葉が使われる事もあります。
ヴァルキリーズ・チルドレンではない冒険者も少なからずこの世界には存在していますが、
ヘレティアの瘴気に耐えられない彼らは、魔物の棲家を攻撃する事は基本的にできません。
隊商の護衛や、物品調達、警備、犯罪捜査への協力などといった仕事で糊口を凌いでいます。
一方で、ヴァルキリーズ・チルドレンである冒険者は、上記のような仕事の他に、
ヘレティアの瘴気に耐え得るその体質を活かして、魔物たちの棲家へ攻撃し、人間の土地を奪い返すための戦いに
赴くような仕事を依頼される事が多々あります。
通常こういった仕事は公的機関から正式に依頼される事が多いため、専業の冒険者だけでなく、
神殿や国軍が独自に擁しているヴァルキリーズ・チルドレンを投入する場合も少なくありません。
このように、普段は国軍や神殿に勤めている者が魔物討伐に駆り出される場合もあるため、
職業としての専業の冒険者と区別するために、ヴァルキリーズ・チルドレンとしての能力を持つ者のうち
魔物討伐を生業の一部にしている者を"討伐者"と呼び、区別する場合もあります。
城郭
都市国家であるか、為政者である貴族が定住しているか、さもなくば大国の王都などである場合、
為政者の権威を示し、まだ外敵から守るための城郭が存在しているのが一般的です。
兵、文官、侍女など併せて、小規模でも数十人、大規模になると数千人を擁しており、
居住施設と要塞としての機能を併せ持っています。
一般的に城郭は都市の中心か、外縁のどちらかに配置されます。
前者の場合は権威と居住性を、後者の場合は防衛のための要塞としての機能を優先した配置と言えます。
外敵の侵入を防ぐための堀と、高さ3メートル以上はある防壁に守られているのが一般的で、
また多くの場合、有事の際に備えて一ヶ月以上は耐え凌げるほどの食料が備蓄されています。
最も、冒険者たちにとってはあまり縁の深い場所ではありません。
絶大な功績を上げた者が城主からじきじきに謝礼と褒美を賜る事が、まれにあるという程度です。
行政機能をソルレオン神殿に委託している場合も多い事が、さらに討伐者との疎遠に拍車をかけています。
ソルレオン神殿
都市と呼べる規模の共同体には、ソルレオン神殿とミラ神殿がたいてい存在しています。
このうち、ソルレオン神殿は多くの場合において、国家から委託されて警察組織としての役目を行っており、
時には為政者から委託されて行政にも携わります。
そのため、文官の出入りが少なからず見られ、さながら神殿と言うよりも役場の出張所に近い雰囲気を
発している場合も少なくありません。
また、この神殿に務める多くの若い僧侶たちは警邏神官を名乗り、警察組織としての活動に務めています。
犯罪者に対する取り調べや留置も行われるため、神殿と呼ぶには少々物々しい雰囲気を感じるかもしれません。
ソルレオン神殿は魔物を邪悪なもの、不倶戴天の敵と定めています。
そのため、魔物と戦うための戦力として、多くのソルレオン神殿ではヴァルキリーズ・チルドレンの確保に
ある程度以上の力を注ぎ、可能であれば入信させ、そうでなくとも自神殿とのコネクションを構築しておき
有事の際の戦力にできるよう顔を繋いでおく程度の事は熱心に行っています。
その特性上、魔物の討伐要請が城郭から降りてくる事も多い事も特徴と言えます。
ソルレオン神殿では魔物の討伐にあたって、自神殿で擁しているヴァルキリーズ・チルドレンを出動させるか、
あるいは冒険者として活動している者などといった在野のヴァルキリーズ・チルドレンに仕事を振るなどして
魔物の討伐を国営事業として管理するかのような役目を担います。
冒険者・討伐者にとっては、頻繁に仕事を貰える、得意先と言ってもいい存在になっている事が多々あります。
ミラ神殿
ミラ神殿は、ソルレオン神殿が建てられている都市には必ず対で建てられています。
夫婦神の仲を引き裂くかのような建て方は本来避けるべきなのでしょうが、ソルレオン神殿は一般的に
物々しく堅苦しい雰囲気の場所である事が多いため、温和なミラ神殿とは距離を置いて建てる事が大半です。
ミラ神殿は多くの場合、奉仕活動を通して幸福と平和を実現しようとする僧侶たちの活動拠点であるため、
総合病院と人生相談所、そしてボランティア活動団体の事務所を統合したようなものとなっています。
神殿の入口付近に広いロビーが設けられているか、あるいは庭園が作られるかといった形で、
訪れた市民たちの談話と憩いの空間も提供されている事が多く、和やかな街の集会所のようでもあります。
一方で、ミラ神殿もまたヴァルキリーズ・チルドレンの確保には一定以上の力を割いています。
もっとも、ミラ神殿にとっては魔物との戦いはあくまでも人類全体の自衛に過ぎません。
魔物に襲われ、平穏や幸福を乱される事があってはならないとする考えから力を確保しているのであって、
基本的には専守防衛主義であり、魔物に対しても積極的な討伐を行うような組織ではありません。
冒険者がミラ神殿に訪れる機会があるとすれば、病院としての用途である事が最も多いことでしょう。
酒場
冒険者にとって最も親しみやすい依頼の受注場所は、やはり酒場になります。
人類を侵略してくる魔物の存在はあれど、多くの人が行き交う酒場は情報の交差点であり、
それゆえ必然的に人から人への依頼も話に登りやすいものです。
通常、酒場は昼から営業を開始し、夜明けまで店を開けています。
多くの場合、昼からこのような場所にいるのは、行くあても仕事もない流れ者であるか、仕事を探す冒険者、
あるいは逆に冒険者を探す依頼人であるか、といった事がほとんどです。
酒と食事を求めてやってくる一般客は夕刻から入り出し、その多くは夜が更ければ帰っていきます。
中には閉店まで安酒をちびちびと飲んで時間を潰している者もいますが、これは相応の事情がある者か、
あるいはただ行くあてが無い者であるかのどちらかです。
一般的に、依頼の発注形態は3つのパターンに分けられます。
ひとつは、張り紙によって広く受注者を募る形式です。対象の護衛など、とにかく戦闘力のある人間が
数人いればそれでいい、という場合にはこの形式になる事が多く見られます。
ふたつめは、店主に話を通し、店主が依頼内容に相応しい人間を連れてくるパターンです。
店主の個人的な知り合いである場合か、あるいは店主が神殿との個人的なコネクションを利用して
神殿で確保しているチルドレンを派遣してもらう、という実態になる事がこのパターンでは多く見られます。
酒場の店主とは神殿の聖職者と比べて水と油のように相容れない職業であるかのように思われますが、
フェルサリアにおいて、魔物に抗い得る力を持つ数少ない存在であるチルドレンを確実に擁している神殿は、
様々な依頼で魔物と戦う可能性のある依頼の行き交う酒場の主にとって欠かせない人脈だと言えるのです。
みっつめは、依頼者が個人的に冒険者に依頼するパターンです。
依頼者と冒険者が既に顔見知りである場合にしばしば見られる形態ですが、主流とは言えません。
店主にしてみれば、仲介料を取れるチャンスをわざわざ棄てるも同然です。財布の紐が硬い店主であれば、
全ての依頼は張り紙なり、話を自分に通すなりして中間マージンを取ろうとするのは当然と言えるでしょう。
逆に、『客の間で何があろうと知らぬ存ぜぬ』という、純粋に酒と場所を提供するだけのスタイルの店では
こういった形態で依頼が受発注される事も少なからずあります。
宿屋
多くの場合、冒険者にとっては宿が家の代わりになります。
酒場の2階・3階が宿になっているというパターンも多く、この手の業態の店はまさに冒険者のための
仮住まいと憩いの場、そして仕事の受注のための事務所を兼ねた施設であると言えます。
冒険者以外の旅客も勿論いますが、このような世界の情勢のため、あてのない旅人はあまりおらず、
たいていはたまたま立ち寄った行商人か、訳ありの旅人です。
往々にして彼らが持ち込んで来るトラブルもまた、冒険者にとっての仕事の種にもなります。
かように、さまざまな事情を抱えた人たちが通り過ぎて行く宿屋という場所においては
基本的に24時間営業している店がほとんどであり、誰に対しても広く門戸を開いています。
もちろん、犯罪者などともなれば話も違ってくるのでしょうが…
一般的な宿屋の個室では、一人用のベッド、小さな机、私物を置けるだけのスペースが提供されます。
その空間の中に娯楽性を求めるのは難しいでしょうが、少なくとも最低限以上衛生が保たれており、
夜露や不潔さに心配を払う必要はありません。
特に拒否しない限り、食事も一日二度は提供されます。
大鍋で用意したシチューやスープ類をセルフサービスでよそり取り、そこにパンがつく程度のものですが
味は決して悪くないレベルで、腹を満たすには充分と言ってよい物が供されます。
より高い金を払えば高級なサービスが受けられる宿もありますが、往々にしてそういった宿は
冒険者ではなく、より身分の高い人物が泊まる事を想定しているものです。
宿とはいえ、多少窮屈な思いをする事にはなるかもしれません。